健康食品の表示と確認のポイント~新型コロナウイルス予防表示への改善要請と注意喚起を踏まえ~

By | 2021年3月5日

 2021年2月19日、消費者庁より「新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品等の表示に関する改善要請及び一般消費者等への注意喚起について」が発表されました。こうした注意喚起の発表は多く、ニュースとしてあまり取り上げていなかったのですが、時期的に公益性の高い情報であることと、最近の事業構造の見直しによる健康食品の製造販売、輸入等への参入も増えていることから、あらためて健康食品の表示の確認のポイントについて整理する機会にしたいと思います。

改善要請と注意喚起の概要


 概要をまとめると、以下のようになります。

  • 新型コロナウイルスについては、その性状特性が必ずしも明らかではなく、かつ、民間施設における試験等の実施も困難な現状において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうするウイルス予防商品については、現段階においては客観性及び合理性を欠くおそれがある。
  • 一般消費者の商品選択に著しく誤認を与えるものとして、景品表示法(優良誤認表示)及び健康増進法(食品の虚偽・誇大表示)の規定に違反するおそれが高いと考えられる。
  • インターネット広告において、新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする健康食品、マイナスイオン発生器、除菌スプレー等に対し、緊急的措置として表示の適正化について改善要請を行うとともに、SNSを通じて一般消費者等への注意喚起を行った。

 また表示の適性化について改善要請が行われたもののうち、健康食品の例より一部を抜粋しました。

  • 新型コロナウイルスはマグネシウム不足で発症、ビタミンD、マグネシウム、亜鉛、セレンをビタミンCと同時に摂取することで、ウイルスに対する免疫機能を強化
  • コロナウイルス予防、ごまの脂質に含まれるリノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸は、免疫力を高める
  • はちみつの中でもさらに強力な殺菌力をもつマヌカハニー、殺菌効果でウイルス対策、コロナウイルスに負けない為に
  • 新型コロナウイルス感染症対策にも良いと言われる「大麦β-グルカン」、世界に脅威を与えるウイルスにも免疫力を高め、ウイルスに負けない身体作り 等

 発表によると、「客観性及び合理性を欠くおそれがある」ことが、今回の改善要請と注意喚起の(緊急的措置として)直接的な理由になっており、単に「新型コロナウイルスに対する予防効果」の表示をしなければよいというものではない点に注意が必要だと思います。

健康食品の表示の確認のポイント


 新しく健康食品を取り扱う方にとって、「表示制度があること」と「根拠が求められること」を知ることは、健康食品の表示を考えるうえでの基本的なポイントであるといえます。

  1. その表示をするための、必要な要件はあるか
  2. その表示を裏付ける、合理的な根拠はあるか

 保有している合理的な根拠の内容と、利用できる表示制度には相関関係があります。“健康”を広くとらえると、表示制度は大きく4つの選択肢があります(医薬品として販売するケースを除く)。

  1. 特定保健用食品として根拠資料をもとに個別審査を受け、許可を受けた表示をする
  2. 機能性表示食品として根拠資料を届出し、届け出た内容(機能性)の表示をする
  3. 栄養機能食品としての基準を満たす根拠を用意し、定められた栄養機能の表示をする
  4. 上記A~Cの表示制度によらず、A~Cの場合にのみ使用できる表示をしない

その他、栄養成分強調表示の基準を満たす根拠があれば、強調(高い、含む、強化等)の表示をすることもできます。
食品に対して医薬品的な効果を表示すると、「無承認無許可医薬品」の取り締まり対象にもなります。

合理的な根拠について


 合理的な根拠は「不実証広告規制」の考え方を参照します。消費者庁の「不実証広告ガイドラインのポイント(「合理的な根拠」の判断基準)」によると、以下のとおりです。

提出資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであると認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 提出資料が客観的に実証された内容のものであること。
  2. 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること。

 健康食品に求められる合理的な根拠の具体例としては、最終製品を用いたヒト試験、使用する原材料や含まれる成分の研究レビューなどの資料があげられます。また栄養成分を強調する場合は、最終製品(賞味期限まで)に含まれる栄養成分の分析などの資料が必要となるでしょう。
 
 先に触れた表示制度による食品(特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品)の場合は、インターネット等の広告への表示においても留意点等の基準が示されているのですが、こうした表示制度によらない一般の健康食品の場合は何をどのように表示すればよいのか基準が分かりにくくなるかもしれません。そうした際に、この「不実証広告ガイドラインのポイント」の考え方が、分かりやすい判断基準になるでしょう。

 健康食品の表示の基本は、「表示制度があること」と「根拠が求められること」を知ること。そして合理的な根拠の2つの要件のうち、本質的に重要な「2. 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること」です。これから新しく健康食品の取り扱いを考えている方は、こうした制度や規制について、理解しておくことが大切だと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

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