食品表示の全体像に関する提言に基づく「空間的情報量に関する調査」「アプリケーションを活用した食品表示実証調査」 報告書が公表されました

By | 2021年9月6日


 2021年8月6日、内閣府消費者委員会食品表示部会において、「空間的情報量に関する調査」「アプリケーションを活用した食品表示実証調査」の報告書が公表されました。これらは2019年8月の“食品表示の全体像に関する提言”により検討が必要とされたものですが、その後時間も経っていることから、ここにあらためて整理してみたいと思います。

背景と目的


 検討の背景と目的については、以下(“食品表示の全体像に関する報告書”より抜粋)のとおりです。

<背景>

  • 義務表示の内容増加に伴い、製品上に表示する文字が多くなっている。
  • 今後、義務化される表示が増えれば、状況は更に深刻化し、消費者が安全性に関わる表示を見落とす可能性もある。

<目的>

  • 食品表示を取り巻く現状等について整理しつつ、消費者のニーズにも十分留意した上で、食品表示の全体像について以下の点を中心に検討。
    1. 表示事項間の優先順位
    2. インターネットを活用した表示の可能性を含む、ウェブ上における情報提供と従来の容器包装上の表示との組合せ

 そして同報告書において以下のような提言がなされたことが、冒頭の2つの調査事業の直接的な背景となっています。

  • 「分かりやすさ」の定義を明確にするために、また、消費者のより詳細な利活用の実態や問題点等を把握するために、表示可能面積に対する一括表示面積の割合や、一括表示のデザイン、フォント、文字サイズ等の情報量の把握等の科学的アプローチに基づく調査が必要。
  • ウェブによる食品表示を検討するために、優良事例等の現状を把握する調査が必要。

「空間的情報量に関する調査」の概要


 調査としては、「空間的情報量に関する調査」「消費者による視認性等調査」の2つが実施されています。

<空間的情報量に関する調査>

  • 加⼯⾷品の市販品約300点を買い上げ、次の事項を測定。
    • 容器包装全体の表⽰可能⾯積と⾯の数を確認。
    • 表⽰可能⾯積に対する⼀括表⽰⾯積の割合を算出。
    • 消費・賞味期限表⽰、栄養成分表⽰及び注意喚起表⽰等の表⽰事項における「⽂字サイズ」、「⽂字数」、「⽂字の変形率」、「⾏間」、「⾏⻑」、「⾯積」等を測定。

<消費者による視認性等調査>

  • ⽂字サイズ、⾏間、⾏⻑、変形率(※)が視認性に与える影響について調査を実施。(「消費者による視認性調査」)
    変形率(縦横幅に対する割合。縦横が共に100%である時、変形無しとする。)
  • 消費者が商品選択をする際に⾒ている⼜は⾒ていない表⽰の傾向を探るため、視線追尾分析を実施。(「消費者の視線追尾分析」)

 報告書での調査結果については、立場によって必要な情報が変わると思います。ひとまず一般的に重要と思われる内容を以下に抜粋しますが、実際の報告書には各データの詳細もありますので、そちらを見ることをお勧めします。

  • 全体の傾向として、注意喚起情報、原材料名、栄養成分表⽰は裏⾯にまとめて表記されていることが多い。すなわち、裏⾯に情報が集中しすぎる状態を招いて情報の量を⾼めている可能性が考えられる。
  • ⽇本語パンフレットのサンプルを⽤いた「読みにくさ」に関する先⾏調査の、「情報量が19%を超えると、読みたくない⼜はストレスを感じる消費者が8割に達する」という結果を踏まえ、この19%を基準値とすると、約61%が基準値を超過している。対して基準値以下は約39%であった。
  • 消費者がパッケージを⾒る際に、裏⾯の左上を注視する傾向にあることが分かった。⼀⽅で、同じ裏⾯であっても、バーコードやその周辺の注意喚起情報はほとんど⾒られておらず、消費者が効率的に読み取っていない可能性が明らかになった。

「アプリケーションを活用した食品表示実証調査」の概要


 容器包装の表示をデジタルツール化し、食品スーパーの消費者を対象に実証実験したものです。

<アプリケーションを活用した食品表示実証調査>

  1. ⾷品製造事業者・データ管理会社が⾷品表⽰データを提供
  2. データベースを構築し、提供された⾷品表⽰データを格納
  3. アプリを構築し、モニター(消費者)がスーパーで商品のバーコードをスキャン
  4. データベースに格納された⾷品表⽰データをアプリで表⽰し、消費者に実証前後でアンケートを実施。

 こちらも報告書での調査結果から様々な情報を得ることができます。ひとまず一般的に重要と思われる内容を以下に抜粋しますが、実際の報告書には技術的な課題や考察等もありますので、同じく確認されることをお勧めします。

  • アプリで⾷品表⽰を⾒て購⼊商品が変わった⼜は変わる可能性があると回答した⼈が実証参加者の7割を超え、アプリで⾷品表⽰を確認することにより消費者の購買⾏動が変化する可能性を⽰した。
  • 情報の確認・収集のしやすさといった基本的な機能だけでは利便性が意識されず、消費者があえてアプリを使ってまで⾷品情報を確認するには、情報の確認・収集のしやすさ以上の付加価値が求められると推察される。
  • ⾷品表⽰に対するニーズを問う質問に対して、「より簡潔に情報を掲載してほしい」という回答が最も多く、次いで「栄養成分の活⽤⽅法を⽰してほしい」、3番⽬が「健康維持・増進に必要な項⽬をもっと増やしてほしい」という回答で、健康に配慮した⾷品の選択を意識する消費者が多い。

分かりやすい食品表示のために


 現在、多くの事業者により、文字を大きくする・色やデザインを工夫する・WEBで詳細な情報提供をするなど、「分かりやすい食品表示」への自主的な取り組みがされています。今回の調査報告書は、こうした「分かりやすさ」について、客観的な定義や改善すべき要素、また消費者の意向を示すエビデンスを考えるうえでのヒントとなりますので、食品表示業務にかかわる方には大変参考になる情報になると思います。
 また海外の読者の方におかれましても、各国でのこうした取り組みと共通する課題も多いと思いますが、報告書には日本市場ならではの気づきも得られるでしょう。日本への食品輸出や、日本からの食品を輸入する際の参考にしていただければと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
 株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
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