「食品添加物表示制度に関する検討会報告書(案)」(「人工・合成」削除、「無添加・不使用」、栄養強化目的の添加物の表示)が公表されました

By | 2020年3月10日


 2020年2月27日開催の第9回食品添加物表示制度に関する検討会において、消費者庁より「食品添加物表示制度に関する検討会報告書(案)」が公表されました。添加物表示制度のうち、とりわけ「無添加」「不使用」表示に関する動向が注目されていると思いますので、こちらに報告書(案)の内容についてまとめてみます。

【ポイント】

  • 「無添加」、「不使用」等の表示については、新たにガイドラインが策定される
  • 「合成保存料」、「人工甘味料」等の「人工」「合成」の用語については、食品表示基準から削除される
  • 栄養強化目的の添加物については、原則全ての加工食品に表示させる方向で、実態調査を実施する

整理の方向性について


(1)一括名表示、簡略名・類別名表示及び用途名表示の在り方

<整理の方向性>

 一括名表示、簡略名・類別名表示及び用途名表示は、表示可能面積が限られていること、これまで30 年以上用いられてきたことから、消費者にとってなじみがあり分かりやすい。一方、現状の制度では、使用した個々の添加物とその使用目的が分からない場合がある。このため、使用した個々の添加物が分かるように、又は後から調べることを可能とするため、コーデックス規格に基づく表示を仮に採用した場合は文字数が大幅に増加することから、表示可能面積の問題や見やすさ、分かりやすさが現状よりも失われる懸念がある。その他、添加物を番号で表示することについては、消費者になじみがないことに加え、使用可能な添加物がコーデックス規格と我が国の制度とで異なることから、番号に置き換えることが可能なものとそうではないものが存在する。また、用途名の併記については、複数の効果を持つ添加物が多数存在し、その用途の選定は結果的に使用する事業者に委ねられるものであり、なじみのない表現もある。以上のことから、現状の制度を変更することは現時点では困難である。

(2)「無添加」、「不使用」の表示の在り方

<整理の方向性>

 『「無添加」、「不使用」、等の表示』
 食品表示基準第9条では表示すべき事項と矛盾する用語や内容物を誤認させるような文字等を禁止しており、食品表示基準Q&A は同条の解釈を示すものであるが、同条の規定の解釈を網羅的に示したものではない。また、添加物に関して「無添加」等の表示方法を示す食品表示基準Q&A も曖昧である。現状の曖昧な食品表示基準Q&A を基に「無添加」等の表示を事業者が任意で行っていることが、消費者意向調査において一部の消費者が「無添加」等の表示を理解していない結果が得られた理由の一つとも考えられる。一方、無添加等の表示を一律に禁止することは妥当ではない。このため、「無添加」等の表示の在り方については、食品表示基準で禁止されている表示すべき事項の内容と矛盾する又は内容物を誤認させるような「無添加」等の表示をなくすことを目的とし、同条の表示禁止事項に当たるかどうかのメルクマールとなるガイドラインを策定することが適当と考えられる。ガイドラインの策定等を通じて、事業者による既存の公正競争規約の改正、業界の新たな公正競争規約の策定を促すことが期待される。

『「人工」、「合成」の用語』
 「合成保存料」、「人工甘味料」等、「人工」及び「合成」を冠した食品添加物表示の規定については、現行の食品衛生法における添加物の取扱いを鑑み、消費者の誤認防止の観点から、削除することが適当であると考える。

(3)栄養強化目的で使用した食品添加物の表示

<整理の方向性>

 栄養強化目的で使用した食品添加物については、諸外国において食品添加物として扱っていないこと及びビタミン、ミネラル、アミノ酸等の含有量の表示は重要であることから、食品表示法制定以前の食品衛生法では、別途栄養成分の表示として整理することが適当とされ、調製粉乳等、栄養に配慮が必要な食品以外ではその表示を要しないとされていた。一方で、食品表示法制定以前のJAS 法では、食品群に応じた規格を設けその規格において使用可能な食品添加物を制限するとともに、栄養強化目的であっても使用した食品添加物は表示することとされており、両法において栄養強化目的で使用した食品添加物の表示の考え方に違いがあった。
 食品表示法に基づく食品表示基準における栄養強化目的で使用した食品添加物の表示の考え方は、以上のような食品衛生法とJAS 法の表示の取り扱いをそのまま取り入れた結果、表示義務がある食品とない食品が存在し、消費者にとって分かりにくい状況となっている。また、国際的にみても、コーデックスやEU、豪州等においては、栄養強化目的の物質を食品添加物としていないものの、使用した物質は全て表示させている。このため、栄養強化目的で使用した食品添加物を知りたいという消費者ニーズも念頭に「表示を要しない」という規定を見直し、原則全ての加工食品に栄養強化目的で使用した食品添加物を表示させる方向で検討することが適当である。
 ただし、その検討に当たっては、現在の表示状況、消費者の意向、事業者への影響について実態調査を実施するとともに、表示の事項間の優先順位、表示可能面積の問題等に関する消費者委員会食品表示部会における「表示の全体像」に関する議論も踏まえ、最終的な結論を得ることが適当であると考えられる。

(4)食品添加物表示の普及、啓発、消費者教育について

<整理の方向性>(一部抜粋)

 行政、消費者団体、事業者団体等それぞれは、表示制度を含む食品添加物に関する普及、啓発を実施しているが、より効果的、効率的に実施をしていくために、行政、消費者団体、事業者団体等がそれぞれの強みを生かして連携し、対象とする世代に応じたアプローチを行うことが適当と考える。特に、消費者庁は、各府省庁と連携し、例えば、食育を通じた取組、学生のみならず学生に教える立場の栄養教諭や栄養士等の専門職を対象とした取組の実施に努めることが望まれる。

今後について


 実態調査の必要な「栄養強化目的」の添加物の表示制度に関する改正と、「無添加」「不使用」等の表示に関するガイドラインの策定にはある程度の期間が必要と思われますが、一方で「人工」「合成」の用語の削除については期間を要することはなく早めに実施されるものと思われます。現状でこうした表示をされている方は、一度検討会議事録に目を通しておかれるとよいと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

>> 寄稿の詳細はこちら

【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

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