海外とアレルゲン表示

By | 2018年12月10日


 先日、海外に輸出される予定の国産食品に「アレルゲンフリー」と表示されているものを見る機会がありました。メーカーさんに話を聞くと「原材料として使用していない」から表示しているとのことで、いくつか注意が必要と感じましたので、今月のコラムは「海外とアレルゲン表示」について書いてみたいと思います。

対象品目の違い


 日本と海外とでは、アレルゲン表示の対象品目に違いがあります。まずは日本のアレルゲン表示の対象品目は、以下の27品目(義務表示は7品目)となります。

義務(7品目):えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生
推奨(20品目):あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

 これに対して、海外の対象品目はやや異なります。例えば香港では、以下の8品目が表示義務の対象となります。

(i) グルテンを含有する穀物
(ii) 甲殻類および甲殻類製品
(iii) 卵および卵製品
(iv) 魚および魚加工品
(v) ピーナッツ、大豆およびこれらの製品
(vi) 乳および乳製品(乳糖を含む)
(vii) ナッツおよびナッツ製品

引用:各国の食品・添加物等の規格基準(農林水産省)より

 また日本(2013年に「ごま」「カシューナッツ」を表示推奨品目に追加)と同じように、規則も改正されていきます。例えば2018年では台湾のアレルゲン表示の規則に改定(2018年8月21日改定、2020年7月1日施行)があり、従来の6品目から11品目へと拡大されています。

  1. 甲殻類およびその製品
  2. マンゴーおよびその製品
  3. ピーナッツおよびその製品
  4. ゴマ、ヒマワリ種子、およびそれらの製品
  5. 牛乳、山羊乳、およびそれらの製品(牛乳および山羊乳由来のラクチトールを除く)
  6. 卵およびその製品
  7. ナッツおよびその製品(アーモンド、ヘーゼルナッツ、くるみ、カシューナッツ、ピーカン、ブラジルナッツ、ピスタチオナッツ、マカダミアナッツ、松の実、栗など)
  8. 小麦、大麦、ライ麦、オート麦などのグルテンおよびその製品を含む穀類
  9. 大豆およびその製品(高純化または精製された大豆油脂、トコフェロールおよびその分解物、フィトステロールおよびフィトステロールエステルを除く)
  10. 最終成果物として算出されるべきすべてのSO2換算で10mg/kg 以上の濃度となる亜硫酸塩および二酸化硫黄などの使用
  11. サーモン、サバ、オオクチ(Yuan xue)、カラスガレイ(Bian xue)およびそれらの製品

引用:各国の食品・添加物等の規格基準(農林水産省)より

 日本から海外へと輸出される食品については、とりわけ「小麦」は含まれないが「グルテン」を含むもの、またキャリーオーバーの添加物に「亜硫酸塩」を含むものなどが注意点としてあげられます(輸入時は、反対に「グルテン」は含まれないが「小麦」を含むものに注意が必要です)。海外に食品を輸出されようとされる方は、対象国のアレルゲン表示の規則について、調べておく必要があります。農林水産省作成の「各国の食品・添加物等の規格基準」は日本語で参照できますので、一度見ておかれるとよいと思います。

フリーと不使用の違い


 次に、「アレルゲンフリー」の持つ意味についても確認が必要です。日本の食品表示基準には、以下の規則があります。

「使用していない」旨の表示は、必ずしも「含んでいない」ことを意味するものではありません。(中略)例えば、一般に「ケーキ」には「小麦粉(特定原材料)」を使用していますが、「小麦粉」を使用しないで「ケーキ」を製造した場合であって、それが製造記録などにより適切に確認された場合に、「本品は小麦(粉)を使っていません」と表示することができます。しかし、このような場合であっても、同一の調理施設で小麦粉を使ったケーキを製造していた場合、コンタミネーションしている場合がありますので、この表示をもって、小麦が製品に含まれる可能性を否定するものではありません。
(食品表示基準Q&Aより)

 日本には「アレルゲンフリー(含んでいない)」表示についての数値基準は明確には定められていませんが、こうした表示に対する基準が定められている国もあります。例えばアメリカやEUでは、「グルテンフリー」と表示できる基準値として「20ppm(mg/kg)」が設定されています。「gluten-free」だけでなく「no gluten」なども対象になるなど、表示方法についても規則がある場合がありますので、こうした表示をされたい方は事前に確認をされておくとよいでしょう。
 また関連する表示としては、「低グルテン」の規則がある国もあります。例としてオーストラリアとニュージーランドの規則は次のようなものとなります。

グルテン

  • (グルテン)フリー
    食品には以下のものを含有してはならない
    (a) 検出可能なグルテン、もしくは
    (b) オーツまたは関連商品、もしくは
    (c) モルト化したグルテンを含有する雑穀または関連商品
  • 低(グルテン)
    100g あたり20mg 未満のグルテンを含有する食品

参考:Federal Register of Legislation. Standard 1.2.7 Nutrition, health and related claims

 その他、アレルゲンフリーの表示をする際には届出が必要な国もありますので、表示方法などの規則だけでなく制度についても調べておく必要があると言えます。

最後に


 こうした制度や規則の違いの背景の1つに、食文化の違いがあると思います。海外に輸出される予定の日本の食品ラベルを見る機会も増えていますが、アレルゲンフリーや○○産原材料使用などの「強調表示」がされているケースも増えていると感じます。日本も同じですが、強調表示をするにはそれなりの根拠の用意が必要となります。
 規則が異なるために、日本では可能だった強調表示ができなくなる場合も多々あります。その際には、無理に他に可能な強調表示を探すのもよいですが、空いた表示スペースには「食品自体の説明文章」にあてると、食文化の異なる消費者にも分かりやすくなるのでは思いますので、海外へ販売するときの参考までにしていただければと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

>> 寄稿の詳細はこちら

【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
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・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
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