英国と日本の食品表示と考え方の違いについて

By | 2022年10月12日


 2021年1月1日、日英包括的経済連携協定(EPA)発効後、日英間の盛んな自由貿易協定は進化を続けており、食品・飲料を含む主要市場は両国に多大な利益をもたらしています。英国のマーケットの現状について、2020年の時点では、英国で消費される食品の約半分(46%)は輸入品になります。英国のEU離脱後、EU諸国、ニュージーランド、オーストラリア、そしてこれまで英国の主要な貿易相手国であった日本との相次ぐ貿易協定を受け、輸出だけでなく、非EU製品とEU製品の輸入も引き続き増加すると予想されます。
 今回は弊社のイギリスのパートナーであり、食品に関する情報を扱うAshbury社に、英国の規制状況についてお話を伺いました。この記事では、日英間の表示制度を比較した際に発生する、異なる表示ルールのうち特に注意すべきポイントについて取り上げています。

関連する監督官庁の役割と責任の理解


 食品の輸出に当たっては、関係制度を把握することが大切になります。食品表示を監督する英国食品基準庁(Food Standards Agency)のWEBサイト等では、基準など実務上で必要な情報を調べることができます。英国で流通する包装済み食品には、食品情報の提供に関する規則(EU No.1169/2011)が適用されており、地方自治体が、その食品情報規則に沿った食品表示の遵守を確保し、監視する責任を負います。なお、パンや小麦粉、チョコレート、ジャムなど特定の食品は英国の製品別の規制で管理されています。食品添加物は、食品添加物に関する EU 法規制 No 1333/2008により使用可能な食品カテゴリーが定められており、(EU)No 231/2012では食品添加物の規格が定められています。英国内のメディアにおけるほとんどの広告・宣伝の規制に関する権限は広告基準庁(Advertising Standards Agency)に有り、広告の監視のほか、トラブルへの相談対応を取り扱っています。

アレルゲンと栄養成分の表示


 アレルゲンや栄養成分の表示方法は、国によって大きく異なり、フォーマット、レイアウト、文字組みなどの違いが、食品表示が基準に適合しない最も一般的な理由の一つとなっています。英国のアレルゲンや栄養成分表示は、「ナッツ」のように日本よりも対象範囲が大括りな項目もあるため、注意が必要です。英国食品基準庁のアラートによると、最も多いリコールは、アレルゲン表示の誤りや未申告のコンタミネーションが原因です。
 英国では、ピーナッツ、牛乳、卵、また広い範囲の甲殻類、ナッツ類、軟体動物などを含む14種類の食物アレルゲンを規定しており、そのアレルゲン又は製品が明確に食品の名称に言及されている場合を除いて、14 種類のアレルゲン又はこれらが使用されている製品については、その名称をすべて表示しなければなりません。加えて、太字など他の原材料と区別できる方法で強調表示する必要があります。特に、英国の表示では、「アレルゲンについては、太字の原材料をご覧ください」のような説明文や案内文を添付することが業界標準となっています。
 栄養成分表示は、(EU)1169/2011の付属書XVに規定された所定の形式に従う必要があります。この特定の形式には特定の順序があり、エネルギー値(kJおよびkcal)、脂質、飽和脂肪、炭水化物、糖類、たんぱく質、塩分(いずれもg)の順に記載します。日本の基本項目以外、飽和脂肪と糖類も義務表示の対象になります。

考え方の違い


 食品の保存方法、調理方法、賞味期限などについては、日本でも同じような表示項目がありますが、考え方にいくつかの相違点があります。

期限表示
 英国でも、「賞味期限」は食品の品質保持に関する期間を、「消費期限」は飲食をしても安全な期間を表しており、腐敗しやすく、短期間のうちに人体の健康に危険を及ぼす可能性のある食品については消費期限で示すことになります。「賞味期限」は表示に記載されているのが一般的ですが、食品種類によっては必ずしも記載されているわけではありません。その一方で、英国で製造された製品には「開封後3日以内に使用ください。」など、具体的な期限が表示されていることがよくあります。 これは安全上の理由から、開封後の製品に対して別の保存方法が必要な場合は、守るべき保存方法と開封後の期限を記載しなければならないためです。また、冷凍肉、冷凍肉調理品、冷凍未加工水産物の食品表示には、「冷凍」という単語の後に、消費期限(日付)と最初に冷凍された日付が必要です。

原産国名
 原産国名の表示については、肉、魚など特定の食品又は特別なルールが要求される場合以外には、要求されていません。原産国の情報が無いなど、消費者が製品の原産国について誤解する可能性がある場合に限り、この情報を表示することが義務付けられています。また、製品の原産国を記載する際に、主原料の原産地が製品の原産国と異なる場合は、主原料の原産地を表示することも義務付けられています。

適切な翻訳と基準に基づいた表示


 食品表示は「消費者の安全を守る」という役割があります。翻訳の際、直訳してしまうと現地基準では受け入れられない言葉やフレーズとなる可能性があり、そのような誤解を招くような情報は、消費者に安全性の不安を与えてしまいます。例えば、「天然」という言葉は、英国でも禁止される場合が多く、明確な定義もされています。しかしながら、日本では香料を含む添加物での使用はできませんが、英国では「天然香料」のような用語の表示に対しては、 (EC) No 1334/2008に記載された特定の要件を満たした場合に使用可能です。

 輸出国と日本の制度を比較しながら、その違いを把握した上で、輸出国の背景を理解して食品表示を適合させることが大切です。今回は英国を対象として日本の食品表示基準との違いを挙げましたが、これらの違いは一部であり、他の相違点もあります。制度の違いにより、互いの文化を理解するチャンスとして、仕事の楽しみの一つとなれば幸いです。


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黄 怡寧

黄 怡寧

台湾出身。微生物学および免疫学を専門とし、主に海外から国内に輸入される原材料や添加物の調査業務のほか、添加物物質名や基準値などの法令検索システム向けデータベース管理業務に従事しています。
趣味は音楽鑑賞と旅行。