2020年1月に施行された米国バイオ工学食品情報開示基準ですが、義務化となる2022年1月まであと半年となりました。これまで米国に食品を輸出されていた方はすでに取組をされていると思いますが、今後輸出を検討される方も多いと思いますので、この機会に日本の制度との違いや注意点を整理してみたいと思います。
<ポイント>
- バイオ工学食品(以下「BE食品」)とは、遺伝子組換え食品を指す
- 組換え遺伝子が検出される場合は表示の対象となる(意図せざる混入は除く)
- 対象食品は、「BE食品」もしくは「BE食品の原材料を含む」の表示が必要となる
BE食品とは
USDA(米国農務省)によると、「特定の組換え技術によって変更された検出可能な遺伝子物質を含む食品、また従来の育種では作成できない、もしくは自然界に存在しない食品」と定義されています。情報開示をしなければならない原材料であるかどうかを事業者が判断できるよう、USDAは以下のBE食品リストを作成し公開しています。
- アルファルファ
- りんご (Arctic種)
- キャノーラ
- とうもろこし
- 綿花
- ナス (BARI Bt Begun種)
- パパイヤ (ringspot virus-resistant種)
- パイナップル (pink flesh種)
- じゃがいも
- サケ (AquAdvantage)
- 大豆
- カボチャ (summer)
- テンサイ
なお上記リストに掲載されていない食品の場合でも、バイオ工学による食品であると記録があるものについては、適切に開示する必要があるとされています。
情報開示の方法
容器包装の主要面または情報パネル部分に、「bioengineered food」(BE食品)または「contains a bioengineered food ingredient」(BE食品の原材料を含む)と表示します。表示方法としては、“文字”で表示する、“シンボルマーク”を表示する、“QRコード等”を掲載する、そして“テキストメッセージ”で応答できる旨の表示をする、など、大きく4つの方法があります(その他、小規模事業者には電話番号やURLでの表示も認められています)。イメージしやすいよう、以下にUSDAの消費者向けパンフレットの一部を引用します。
引用:What is a Bioengineered Food? (pdf)
日本の遺伝子組換え表示制度との違い
日本から米国に食品を輸出しようとする事業者は、両国の制度の違いを知っておく必要があります。両国の制度の主な違いについて、以下のように整理してみました。
BE食品情報開示基準(米国) | 遺伝子組換え表示制度(日本) | |
---|---|---|
対象食品 | アルファルファ、りんご (Arctic種)、キャノーラ、とうもろこし、綿花、ナス (BARI Bt Begun種)、パパイヤ (ringspot virus-resistant種)、パイナップル (pink flesh種) 、じゃがいも、サケ (AquAdvantage)、大豆、カボチャ (summer) 、てん菜、およびこれらを原材料とする加工食品。その他バイオ工学による食品であると記録があるもの。 | 大豆、とうもろこし、ばれいしょ、なたね(キャノーラ)、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤの8農産物と、これらを原材料とする33加工食品。 |
対象原材料重量割合の基準 | ― | 表示義務は「主な原材料(重量割合上位3位以内かつ5%以上)」に限られる。 |
対象外の食品 | 高度に精製されており組換え遺伝子が検出されない食品(砂糖や油脂等)。 | 組換え遺伝子またはこれにより生じたたんぱく質が残存しない食品 (従来のものと組成、栄養価等が著しく異なる遺伝子組換え農産物およびその加工品を除く)。また対象原材料が「主な原材料」に該当しない食品。 |
義務表示の種類 |
|
|
任意表示の種類 |
|
|
表示方法 | 文字、シンボルマーク、QRコード等、またはテキストメッセージで応答できる旨を容器包装に表示。 | 文字により容器包装に表示。 |
意図せざる混入率の閾値 | 5% | 5%(分別生産流通管理が適切に行われている場合) |
免除される食品 | 食肉、野禽、卵製品の重量割合が上位2位までの食品。食品にわずかなレベルで存在し、食品に技術的または機能的効果を持たない偶発的な添加物(21 CFR 101.100(a)(3))。外食(レストラン等)、零細事業者の食品。 | 添加物。外食(食品表示基準として)。 |
上記のとおり、米国ではとりわけ以下の3点は日本の制度と大きく異なるため、注意しておく必要があるといえるでしょう。
- 原材料重量割合の基準がない
(上位4位以下5%未満であっても、組換え遺伝子が検出される場合は対象となる) - 「分別生産流通管理」にあたる基準がない※1
(「不分別」といった可能性表示は米国では使用できない) - 「遺伝子組換えでない」表示にあたる基準がない※2
(「not bioengineered」「non-GMO」表示は、米国有機認証があれば妨げないという見解はある)
※1 反対に日本に輸入する場合には、「分別生産流通管理」「安全性審査」を確認する必要があります。
※2 日本の「遺伝子組換えでない」表示は、「検出されない」条件へと厳格化されています(2023年4月)。
なお米国では外国語の表示に対する基準もありますので、容器包装に日本語表示を残す場合は、こうした制度改正時には同様に注意されるとよいでしょう。
参考サイトと判断ツール
USDAは、事業者がBE食品情報開示基準の対象となるかを判断しやすいよう、WEBサイト上で判断ツールを公開しています。質問に対しYES/NOで回答を進めると、下記のような質問が表示され、その場で表示対象か対象外であるかが分かります。
引用:Decision Tool – Do I need to make a bioengineered food disclosure?
対象の原材料(BE食品リストにあるもの)を使用されている場合は、まずは「検出されるかどうか」を確認し、その後、「どのように情報開示するか」を検討する流れになると思います。2020年1月施行、2022年1月義務化というスケジュールですので、今後米国に食品の輸出を検討される方は、注意して確認をされるとよいでしょう。
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川合 裕之
■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。
■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)
【寄稿】
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」
>> 寄稿の詳細はこちら
【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師
■最近の講演・セミナー実績
・2024年4月11日 “低糖質、〇〇不使用、植物由来、機能性等” 健康に関する食品の輸入および輸出時の表示確認の実務について
アヌーガ・セレクト・ジャパン様主催。
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
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