アレルゲンの推奨表示対象に“アーモンド”を追加 “くるみ”は推奨から義務化へ

By | 2019年8月7日


 2019年7月5日、内閣府消費者委員会食品表示部会において、消費者庁は「アーモンドの推奨表示対象への追加」と「くるみの義務表示対象品目への指定」する方針を公表しました。改正の背景と、今後の予定についてまとめてみたいと思います。

背景と調査結果について


 2019年5月31日、「即時型食物アレルギーによる健康被害の全国実態調査」(平成30年度(2018年度)調査)の結果をとりまとめた報告書(「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」)が発表されました。概ね3年ごとに実施されている定期的な調査ですが、前々回調査(平成24年度(2012年度))、前回調査(平成27年度(2015年度))と比較し、アーモンドとくるみの症例数が増加している点が、改正の背景にあります。
 
 報告書をもとにした考察は、以下のとおりまとめられています。

<アレルギー物質を含む食品の表示について「考察および結論」より>

  • 全症例において特定原材料7品目は77.0%(3,733名)を占め、特定原材料等20品目を含めると94.5%(4,584名)を占めた。また、ショック症例524名において、特定原材料7品目は76.5%(401名)、特定原材料等20品目を含めると94.0%(493名)を占めた。以上は特定原材料等27品目が、我が国のアレルギー食品表示の管理対象として十分なカバー率であることの証左である。
  • アーモンドは前回調査でも、特定原材料等でカバーされない食物の中で一番多く、2期連続して特定原材料等でない中で最も多かった。アーモンドは、これまでに中途より特定原材料等に格上げとなったバナナ、カシューナッツ、ゴマと比べても、症例数においても十分に多いといえる。

これらの結果から、今後アーモンドの推奨表示対象への追加を検討する必要性が示される。また、クルミを筆頭とした木の実類アレルギー患者の急激な増加は注視しておく必要がある。

<アレルギー物質を含む食品の表示について「検討課題」より>

原因食物 区分 24年度 27年度 30年度 対応
くるみ 即時型症例数 40 74 251 義務化を視野に入れた検討
ショック症例数 4 7 42
アーモンド 即時型症例数 0 14 21 推奨品目への追加検討
ショック症例数 0 4 1

現状の制度について


 食品表示基準における「アレルゲン表示」とは、特定のアレルギー体質をもつ消費者の健康危害の発生を防止する観点から、過去の健康危害等の程度、頻度を考慮し、加工食品等へ特定原材料を含む旨の表示を規定したものです。

 特定原材料等は、「特定原材料(義務7品目)」と「特定原材料に準ずるもの(推奨20品目)」に区分され、それぞれ以下のとおりの品目が対象となっています。

特定原材料等 理由 表示の義務
特定原材料 えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生 特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いもの 表示義務
特定原材料に準ずるもの あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの 表示を奨励
(任意表示)

 なお、表示方法は、以下のとおりです。(原則、個別表示。例外として、一括表示が可。)

<表示例:個別表示>

原材料名:じゃがいも、にんじん、ハム(卵・豚肉を含む)、マヨネーズ(卵・大豆を含む)、たんぱく加水分解物(牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)/調味料(アミノ酸等)

<表示例:一括表示>

原材料名: じゃがいも、にんじん、ハム、マヨネーズ、たんぱく加水分解物/調味料(アミノ酸等)、(一部に卵・豚肉・大豆・牛肉・さけ・さば・ゼラチンを含む)

今後の予定


 くるみの義務表示品目への指定については「今回の症例数が一過性のものでないかの確認が必要」「義務表示対象品目に指定する場合、実行担保の観点から、試験方法の開発と妥当性評価が必要」と検討課題が整理されているため、2~3年後の施行を目途に準備が進められています。アーモンドの推奨表示への追加については、早ければ今年の秋に施行される見込みです。

 現状ですべての商品において推奨表示対象を含めた27品目を表示している場合は、規格書管理の段階から「アーモンド」の項目の追加をする必要があります。また海外の多くの国のアレルゲン表示制度では、くるみやカシューナッツ、アーモンド等を「Tree Nuts(木の実)」として表示するため、原材料規格書も多くの場合でTree Nutsとして管理されています。とりわけ海外からの輸入原材料を使用する場合、また海外から食品を輸入する場合には、注意が必要な改正と言えますので、消費者庁資料「アレルギー物質を含む食品の表示について」を早い段階で確認されるとよいでしょう。

 なお、「アレルギー物質を含む食品の表示について(消費者庁)」は内閣府消費者委員会のホームページ上で、「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」は消費者庁のホームページ上に掲載されています。全症例数における各原因食品(鶏卵、牛乳、小麦等)の割合や、症例別(即時型症状、ショック症状)の原因食品の割合などの調査結果を見ることができます。食品表示の実務担当者におかれては、規則改正情報や原材料情報などの技術的な情報の把握も大切ですが、こうした改正の背景となる実態の情報について、正しく知っておくことが表示ミスを防ぐことと、事故時の対応により役立つものとなるのではと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
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