食品表示基準の修正案が公開されました

By | 2014年10月1日

2014年9月23日、「食品表示基準(案)についての意見募集結果について」が公開されました。パブリックコメントに寄せられた意見総数は4,329件で、その概要と意見に対する考え方が掲載されています。 翌日9月24日、パブリックコメントを受けた食品表示基準(案)修正案が消費者庁より提示され、消費者委員会食品表示部会において議論がされました。

パブコメ案からの主な修正点は次のとおりです。

小包装の食品について


表示可能面積がおおむね30cm2以下の場合であっても省略不可とされていた表示事項(名称、保存方法、消費期限又は賞味期限、表示責任者およびアレルゲン)に、「L-フェニルアラニン化合物を含む旨」が追加されました。フェニルケトン尿症患者の安全性の確保のためです。

さらにインストア加工されたサンプル品や小学校のバザーでの袋詰め品など、表示責任者を表示しなくてもよい場合であっても、製造所所在地と製造者名については省略不可となりました。

実務で影響がありそうな変更点は、L-フェニルアラニン化合物の追記です。通常は「甘味料(アスパルテテーム・L-フェニルアラニン化合物)」と用途名併記されるため、添加物として使用している場合はそれほど問題になりません。ですが修正案として再度注目されることから、アスパルテーム自体をキャリーオーバーとして扱っている商品はないかといった確認の問い合わせの可能性については、想定されておくとよいと思います。

経過措置期間の延長


また修正案では、経過措置期間(食品表示基準の施行後、新しいルールに基づく表示への移行の猶予期間)が延長されています。加工食品は2年から5年に、添加物は1年から5年と、移行に際して猶予期間が延長されたことになります。

また生鮮食品については経過措置期間なしだったところを、1年6ヶ月とされました。アレルギー表記方法の見直しや栄養成分表示の義務化、また原材料と添加物に区分を要するなど、今回の食品表示基準施行によりほぼすべての商品において表示の改版作業が必要になることに対する負担軽減への配慮であると考えられます。

ただ消費者庁の修正案の資料には、経過措置期間延長の背景として「製造所固有記号制度のデータベース整備」について記載されています。平成27年度予算で所要額を要求し、その整備を終えてから施行することを予定しており、そのデータベースが整備された時点から表示ラベルの改版作業を始める事業者が多いと考えられる、とあります。

この点からも、今回の食品表示基準で最も重要なポイントは、やはり「製造所固有記号」であると言えると思います。

そのほかの修正点


その他、修正があった事項については次のとおりです。まずは製造所固有記号についてですが、これはパブコメ案から修正された点は「業務用食品を除く」の追加のみです。パブコメ案のとおり、現状で製造所が1箇所である商品については、製造所を表示しない「販売者」のみの表示はできなくなります。先の記載のとおり、多くの商品が該当するものと思われます。

栄養成分表示義務化の例外規定については、小規模事業者の定義が「課税売上高1000万円以下」から、「中小企業基本法に規定する小規模企業者」に修正されています。従業員20人以下、商業・サービス業では5人以下の事業者については、当分の間栄養成分表示の省略が認められることになります。

ナトリウムと食塩相当量の表示にも、若干の修正がありました。食塩相当量の表示が必須なのはパブコメ案から変更はありませんが、現行の表示のように、ナトリウムの量の次に食塩相当量を括弧書き等で併記することも認められます。
(※2014/11/5 追記:ただしナトリウム塩を添加していない食品に限る)

また栄養強調表示の相対表示についても修正がありました。低減された旨の表示の場合は25%以上の相対差が必要だったのですが、ナトリウムだけ相対差の特例が認められます。

消費者、事業者への影響


食品表示基準の修正案を通してみると、アレルギー表記方法変更や製造所所在地の表示など全体的に消費者にとってメリットのある改善がなされていると感じます。また事業者にとっても猶予期間の延長や、小規模事業者への配慮などがされているなど、バランスのとれた内容だと感じます。

ただ製造所固有記号制度の変更は、消費者と事業者といった区分に関わらない影響と課題があるのではと考えています。販売者として表記できる、つまり製造工場を持たなくともオリジナルの商品を開発できる点で、これまで生活に身近な食品事業を開業する新しい食品販売者が増えてきた背景もあります。

事業をするにあたって大変なのは集客であり、新しいお客さんを開拓するには相応のコストがかかります。販売者にとっては、留め型商品のロットをはじめ、様々な課題が生じると思われます。また製造者にとっても販売してくれる人がいなければ困るため、より小ロットでの製造や独自の対応などを検討せざるを得なくなることも考えられます。

農業水産業から製造を通して食べものをつくる人を増やすことも、新しく開業して身近な食品を販売する人を増やすことも、社会全体でみると大切なことだと思います。今回の製造所固有記号制度の変更に事業者がどのように対応するかは、消費者だけでなく生活者の立場として受ける影響についても考えていかなければいけない課題があると思います。

参照資料:
第31回食品表示部会資料 食品表示基準の概要 平成26年9月消費者庁食品表示企画課
http://www.cao.go.jp/consumer/history/03/kabusoshiki/syokuhinhyouji/doc/141015_shiryou3_6.pdf
パブリックコメント:結果公示案件詳細 食品表示基準(案)についての意見募集結果について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=235080024&Mode=2


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

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