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王 惠嫻

About 王 惠嫻

台湾出身。栄養学を専門とし、主に国内から海外に輸出される原材料や添加物の調査業務のほか、各国の栄養成分や表示基準などの法令検索システム向けデータベース管理業務に従事しています。
趣味はカメラ。

英国における「健康的でない」と認定される食品や飲料の広告規制について


 2023年12月13日から2024年2月7日まで実施した意見公募の結果を受け、英国の広告基準協議会(ASA)は、2025年10月1月からテレビ、オンデマンド番組サービス(ODPS)および有料なオンライン広告媒体において、午前5時30分から午後9時までの間に高脂肪、高塩分、高糖分 (HFSS) の「健康的ではない」食品および飲料製品の広告の放送禁止を決定しました。

広告規制の概要


 「健康的ではない」HFSS食品とは、100gあたりの食品または飲料に含まれる栄養成分が2011年に発行された英国保健省の栄養成分プロファイルの評価方法により採点され、製品中「カロリー、飽和脂肪、糖類、ナトリウム」の含有量で割り当てられる点数から「果物、野菜、ナッツ、食物繊維、たんぱく質」の含有量に振られる点数を引いた結果、4点以上の食品もしくは1点以上の飲料のことを指しています。「より健康的ではない」と認定される食品は子ども向けの広告を放送する際に英国情報通信庁(Ofcom) の規制の対象となります。

 英国政府は2007年より、子どもの食事の選択に対する広告の潜在的な影響をさらに軽減するため、「より健康的ではない」食品および飲料製品の広告の制限を設けていました。2022年に、英国政府は2003年通信法の改正と共に特定の食品および飲料製品の広告に対して追加制限を義務付ける規制の導入を1年間延期することを発表しましたが、今回の「より健康的ではない」食品および飲料製品の広告に対して追加制限を義務付ける法律の意見公募結果を踏まえて、子ども向け、すなわち16歳未満を対象とした雑誌やウェブサイトに掲載する広告の他、対象視聴者の25%以上が16歳未満の場合(例えば、インフルエンサーを起用し、子どもを含めて幅広い年齢層に訴求を届ける内容)は放送を禁じられることになります。

 この規制の対象は、例えばポッドキャスト、ストリーミングサービス、インターネットラジオなどの音声のみのプラットフォームを除く、ウェブサイト、ソーシャルメディア上、アプリ、ゲーム、野外などで公開される、子どもに視覚的な暗示を与えるHSFF食品の広告などです。詳しくはガイダンスの改正案HFSS食品のメディア掲載方法をご参照ください。

各国の広告規制の現状および今後について


規制概要
英国 2025年10月1月からテレビ、オンデマンド番組サービス(ODPS)および有料なオンライン広告媒体において、午前5時30分から午後9時までの間に高脂肪、高塩分、高糖分 (HFSS) の「健康的ではない」食品および飲料製品の広告の放送禁止
EU オーディオ・ビジュアル・メディア・サービス指令 (AVMSD: Audio Visual Media Services Directive 2010/13/EU) はテレビ及びテレビ類似のサービスを規制するもので、 未成年者に有害な商品の広告規制についても規定されています。 ただし、HFSS 食品と飲料に概ね相当する商品の子ども向けテレビ広告規制に関する規定は、加盟国に当該行動規範の制定を義務付けるものではありません
シンガポール 2019年10月10日より包装済みの糖類含有量の多い飲料に対して、テレビネットワーク、紙媒体メディア、屋外の公的な場所などでのマスメディアの広告を禁止
MOH TO INTRODUCE MEASURES TO REDUCE SUGAR INTAKE FROM PRE-PACKAGED SUGAR-SWEETENED BEVERAGES (Ministry Of Heath, Singapore)

 「健康」や「Healthy」など、栄養強調表示における要件は日本、アメリカを含めて多数確認できますが、広告規制を施行する国はまだ少数派だと見られています。それでも肥満対策の一環として各国で様々な動きがある中、栄養成分の表示方法と法令改定への影響は今後も引き続き注目していくべきだと考えます。


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アメリカにおける「Healthy(健康的)」の食品表示に関する改定案について


 2022年9月28日、米国食品医薬品局(FDA)は1994年に制定された栄養強調表示における「Healthy」の定義を改定する草案を発表しました。現在の定義では総脂肪、飽和脂肪、コレステロール、ナトリウムに制限があり、さらに食品はビタミンA、ビタミンC、カルシウム、鉄、たんぱく質、食物繊維のうち一つ以上の栄養素を一日の摂取量(DV)の10%以上含んでいなければならないとされています。FDAは、2022年12月28日までパブリックコメントを募集しています。

改定背景


 アメリカの最新の食事ガイドラインでは、食品に含まれる個々の栄養素を重視するよりも、食事全体としてバランスよく栄養を摂取することを重視する考え方に変わってきています。つまり、現行の定義における「Healthy」の考え方と現代の考え方とに齟齬が生じつつあることが、今回の改定への動きの背景の一つとして挙げられています。
 「Healthy」など食品における強調表示は、消費者が一目見てより健康的な食品を選択できるような重要な情報源です。
 現状として、80%以上の米国人が野菜、果物、乳製品を十分に摂取しておらず、添加糖類、飽和脂肪、ナトリウムを過剰に摂取しているとされています。今回の改定案は消費者が栄養と食事バランスの改善および慢性疾患負荷を軽減するための参考となるよう、FDAは栄養科学および食事ガイドラインの現状に合わせて、健康の公平性を向上させる取り組みとして提案しています。

「Healthy」の枠組


 改定後の案として、現行基準で対象とされている栄養素の中から総脂肪、コレステロールを削除し、添加糖類の追加が検討されています。
 また、今回提案された「Healthy」の定義は、現代栄養科学、「Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025」、改定された栄養成分表示に基づき、消費者が現在推奨されている食事基準に近い食事内容の組み立てに役立つよう考えられています。

 具体的には、提案された「Healthy」の定義では、食事ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025)で推奨されている食品グループまたはそのサブグループのうち、少なくとも一つの食品から一定以上の量が含まれている必要があります。また、添加糖類、飽和脂肪、ナトリウムの最大限度はそれぞれの一日の摂取量(DV)に基づき設定されています。

 例えば、果物や野菜、穀類、たんぱく質、乳製品などを一定量以上含む必要があるとされており、生の丸ごと使用される果物や野菜は自動的に「Healthy」の要件を満たします。
 また、現在「Healthy」の要件を満たしていない食品でも、改定案の定義の下では要件を満たす可能性があります。例えば、水やアボカド、ナッツ・シード類、サーモンなどの脂肪の多い魚、特定の油が挙げられます。
反対に、改定案の定義に該当しない可能性のある現在の「Healthy」食品としては、精白パン、高糖度のヨーグルト、高糖度のシリアルが挙げられます。

【改定案において「Healthy」の表示が可能とされる各食品グループの基準と食品例(基準消費量(RACC)あたり)】

食品グループ 食品グループごとの最小相当量 添加糖類の最大限度 ナトリウムの最大限度 飽和脂肪の最大限度
穀類 3/4 oz 全粒穀物相当量 5% DV (2.5 g) 10% DV (230 mg) 5% DV (1 g)
乳製品 3/4 cup相当量 5% DV (2.5 g) 10% DV (230 mg) 10% DV (2 g)
野菜 1/2 cup相当量 0% DV (0 g) 10% DV (230 mg) 5% DV (1 g)
果物製品 1/2 cup相当量 0% DV (0 g) 10% DV (230 mg) 5% DV (1 g)
食品グループ・たんぱく質類(一例) 食品グループごとの最小相当量 添加糖類の最大限度 ナトリウムの最大限度 飽和脂肪の最大限度
ジビエ肉 1 ½ oz 相当量 0% DV 10% DV 10% DV
海鮮製品 1 oz相当量 0% DV 10% DV 10% DV
ナッツ・シード類 1 oz相当量 0% DV 10% DV 5% DV*

* ナッツ・シード類由来の飽和脂肪は除きます。

食品グループ・油脂類(一例) 食品グループごとの最小相当量 添加糖類の最大限度 ナトリウムの最大限度 飽和脂肪の最大限度
100%油脂類 N/A 0% DV 0% DV 総脂肪の20%
油脂ベースのスプレッド類 N/A 0% DV 5% DV 総脂肪の20%
油脂ベースのドレッシング類* N/A 2% DV 5% DV 総脂肪の20%

* 油脂30%以上を含み、かつ油脂中の飽和脂肪が総脂肪の20%以下であることが必要です。

食品例 単一食品 混合製品 調理済み食品
 
食品グループ(ごと)の必要量 ヨーグルト:6 oz
(1食品グループ相当量) *
ドライフルーツ:1/8 cup
ナッツ:1/4 cup
(異なる2つの食品グループからそれぞれ1/2食品グループ相当量以上)
サーモン:1 oz
グリーンビーンズ:1/2 cup
玄米:3/4 oz
(異なる3つの食品グループからそれぞれ1食品グループ相当量以上)
栄養成分制限量(以下) ** 飽和脂肪:2 g
ナトリウム:230 mg
添加糖類:2.5 g
飽和脂肪:1 g***
ナトリウム:230 mg
添加糖類:0 g
飽和脂肪:4 g
ナトリウム:690 mg
添加糖類:2.5 g
* 食品グループ相当量とは、食品グループの必要量です。
** 制限量は、各栄養成分の1日摂取量(DV)に基づき算出しています。
*** ナッツ/シード類由来の飽和脂肪は制限量に寄与しません。

「Healthy」マーク (Healthy symbol)


 上記とは別にFDAは「Healthy」の要件を満たす食品には、自主的に使用できる「Healthy」マーク (Healthy symbol) に関する調査も行っています。このマークは特に栄養に関する知識をあまり持っていない人にとって、健康的な食事パターンの基礎となる食品を選択するのに役立ちます。調査結果は連邦官報の通知を通して2021年5月と2022年3月の2回に分けて公開されています。
 こちらについても引き続きパブリックコメントの募集が行われる予定ですので、今後の改正動向に注目していただくことをおすすめいたします。

【Healthy symbol案】

参照:
Use of the Term Healthy on Food Labeling (FDA summary)
Food Labeling: Nutrient Content Claims; Definition of Term “Healthy”
FDA Proposes Updated Definition of ‘Healthy’ Claim on Food Packages to Help Improve Diet, Reduce Chronic Disease
Appendix G Healthy Symbols Figure
Dietary Guidelines for Americans, 2020-2025 and Online Materials


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