機能性表示食品の事後チェック指針案が公表されました

By | 2020年2月4日

 令和2年(2020年)1月16日、消費者庁より「機能性表示食品に対する食品表示等関係法令に基づく事後的規制(事後チェック)の透明性の確保等に関する指針(案)」が公表され、パブリックコメントの募集が開始されました。科学的根拠として明らかに不適切であると判断される事例のほか、広告その他の表示において問題となるおそれのある事例が示されていることから、機能性表示食品だけでなく一般的な健康食品においても参考になる考え方となっていますので、こちらに取り上げてみたいと思います。

事業者の予見可能性を高め、自主点検に取り組みやすくする


 今回の指針の公表は、平成30年(2018年)11月の規制改革推進会議(内閣府)において、「機能性表示食品の広告規制・事後規制に、事業者が困難をきたしている」と議論されたことが背景となっています。その後同会議における議論を経て今回の指針の公表に至っており、「不適切な表示に対する事業者の予見可能性を高める」とともに「事業者による自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図る」ことを主な目的としています。

科学的根拠に関する事項


 指針の第1は、「科学的根拠に関する事項」です。こちらはガイドライン(「機能性表示食品の届出等に関するガイドライン」)と健食留意事項(「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」)の考え方を踏まえつつ、届出の事後チェックの透明性の確保等に資する観点から、より詳細に示されたものとなっています。

「科学的根拠として明らかに適切とは考えられない具体例」が記載されていますので、以下に一部を抜粋してみます。「合理的に説明できない場合」「不備がある場合」などの内容についてより詳しく記載されていますので、今後、科学的根拠として適切であるかを確認するための基準になるものと思われます。

  • 届出資料において、表示する機能性に見合ったリサーチクエスチョンは設定されているが、表示の内容が、科学的根拠の内容に比べて過大である、又は当該根拠との関係性が認められない場合(例:主要アウトカム評価項目(通常1つを設定)において表示する機能性についての有意な結果が得られていないもの、等)
  • 研究レビューにおける成分と届出食品中の機能性関与成分との同等性が担保されない場合(例:研究レビューで有効性が確認された際の摂取時の形態や剤型と届出食品での形態や剤型が異なる場合において、有効性が確認された機能性関与成分の有効量の同等性が合理的に説明されない場合、等)

広告その他の表示上の考え方について


 指針の第2は、「広告その他の表示」に関する事項です。機能性表示食品の広告その他の表示が、届出された機能性の範囲を逸脱する場合、各法令上問題となるおそれがあります。とりわけ“実際のものよりも著しく優良と示し、又は事実に相違して他の事業者に係るものよりも著しく優良と示す表示“を禁止している景品表示法について、事業者が留意すべき事項が表示要素別に示されています。

届出された機能性の範囲を逸脱して景品表示法上問題となるおそれのある事項(一部抜粋)

(1)解消に至らない身体の組織機能等に係る問題事項等の例示
“届出された食品又は機能性関与成分が有する機能性では解消に至らない疾病症状に該当するような身体の組織機能等に係る不安や悩みなどの問題事項を例示して表示すること”
“当該食品又は当該機能性関与成分が有する機能性ではおよそ得られない身体の組織機能等の変化をイラストや写真を用いるなどにより表示すること”

(2)届出された機能性に係る表示
“届出された機能性の科学的根拠が得られた対象者の範囲が限定されているにもかかわらず、当該対象の範囲外の者にも同様の機能性が期待できるものとして訴求すること”等

(3)実験結果及びグラフ
“試験条件(対象者、人数、摂取方法等)が視認性をもって明瞭に表示されていない”等

(4)医師や専門家等の推奨等
“推奨等が当該食品の効果を全面的に肯定していないにもかかわらず、肯定している部分のみを引用する場合”等

(5)体験談
“断定的な表現を用いて効果を保証するかのような表現を用いたり、治療や投薬等の医療が必要でないかのような表現を用いたりする”等

なお、「体験談」については、以下の記載がある点にも留意が必要です。

「当該体験談を表示するに当たり事業者が行った調査における1.体験者の数及びその属性、2.そのうち体験談と同じような効果が得られた者が占める割合、3.体験者と同じような効果が得られなかった者が占める割合等を明瞭に表示することが推奨される。」

 また同指針の「打消し表示」の項目においても体験談に触れられていますので、広告その他の表示において体験談を使用する場合には、とりわけ確認が必要といえるでしょう。

(6)届出表示又は届出資料の一部を引用した表示
“届出表示の一部を切り出して強調することで、届出された機能性の範囲を逸脱した表示を行う場合”

 以上までが、「不適切な表示に対する事業者の予見可能性を高める」役割を果たす指針になるものと思われます。

施行期日は令和2年(2020年)4月1日の予定


 同指針の最後に、届出資料の不備等の問題が明らかとなった場合において「景品表示法上問題となるものとは取り扱わない」とされる内容が整理されています。その1つに、「機能性表示食品に関する科学的知見及び客観的立場を有すると認められる機関又は組織等において妥当であるとの評価を受けるなど、適切な客観的評価により表示の裏付けとなる科学的根拠が合理性を欠いているものではないと判断されるもの」が記載されていますので、こちらは「事業者による自主点検及び業界団体による自主規制等の取組の円滑化を図る」目的として、今後こうした仕組みづくりが進められるものと思われます。

 パブリックコメントで意見募集中ですが、同指針の案の施行期日は、令和2年(2020年)4月1日と予定されています。機能性表示食品を取り扱う方だけでなく、一般的な健康食品を取り扱う方にも影響のある指針と思われますので、一度確認をされておくとよいと思います。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
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