加工食品の原料原産地表示の拡大について

By | 2016年3月31日

今年1月より、「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」が始まっています。検討会の趣旨は、「実行可能性を確保しつつ、拡大の検討を行う」ものです。今回のコラムは、この検討会の内容をベースに、原料原産地の現状と課題についてまとめてみたいと思います。

検討会の背景と趣旨


まずは背景ですが、下記の決定により原料原産地表示について「実態を踏まえ」「実行可能性を確保しつつ、拡大に向けた検討を行う」とされていることにあります。

・「消費者基本計画」(平成27年3月24日閣議決定)
・「食料・農業・農村基本計画」(平成27年3月31日閣議決定)
・「総合的なTPP関連政策大綱」(平成27年11月25日TPP総合対策本部決定)

これを受けて消費者庁と農林水産省の共催による「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」が開催され、今後の対応方策について検討が始まりました。

現状の原料原産地表示制度


食品全体で考えた場合、原産地に関する表示制度は下記のようになっています。

生鮮食品 原産地名の表示義務
加工食品 一部の食品に原産地名の表示義務
輸入品に原産国名の表示義務
外食 表示義務なし

加工食品の「一部」とは、22食品群+4品目を指します(詳細は「食品表示基準別表第十五」を参照してください)。これら対象加工食品の選定基準について、平成12年からいろいろな検討がされてきたのですが、分かりやすいものが「加工食品の原料原産地表示に関する今後の方向(平成15年)」にありますので、下記に引用します。

? 原産地に由来する原料の品質の差異が、加工食品としての品質に大きく反映されると一般に認識されている品目のうち、
? 製品の原材料に占める主原料である農畜水産物の重量の割合が50%以上である商品

このような経緯があり、現在の食品表示基準においても、原産地名の表示方法について、「原材料及び添加物に占める重量の割合が最も高い生鮮食品で、かつ、当該割合が50%以上であるものの原産地を、原材料名に対応させて」表示するなどの基準が定められています。

また食品表示基準以外でも、原産地に関する表示基準が定められているものもあります。東京都消費生活条例では、調理冷凍食品(一部除外規定あり)に対して「重量に占める割合が上位3位までのもので、かつ、当該割合が5パーセント以上である原材料及び商品名等にその名称が付された原材料」に対して原産地表示に関する規則を設けています。また食用塩やコーヒー、蜂蜜などの公正競争規約においても、原産地表示に関する規則を設けています。

主な課題と今後のスケジュール


「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」では、次の3点を検討します。

・ 現行の加工食品の原料原産地表示制度や取組の検証
・ 加工食品の原料原産地表示の拡大に向けた具体的な方策
・ その他

そして主な課題の1つとなるのが、「実行可能性」でしょう。生鮮食品に近い加工食品を製造する国内の食品事業者は原産地表示の拡大を希望する一方で、多種多様な原材料を使用した加工食品を製造する食品事業者は実行可能性を懸念するといった構図になっていると思われますので、検討会ではまず関係者のヒアリングから進めている状況です。

また前回の「食品表示一元化検討会報告書(平成24年)」では、「本検討会では、これまでの「品質の差異」の観点にとどまらず、新たな観点から原料原産地表示の義務付けの根拠とすることについて議論を進めたが、合意には至らなかった。当該事項については、食品表示の一元化の機会に検討すべき項目とは別の事項として位置付けることが適当である。」と、課題のような形でもまとめられています。

この「新たな観点」とは、食品表示一元化検討会のなかで検討された「原料原産地の誤認を防止する観点」と思われますので、今回の検討会においても引き続き重要な意味をもってくるものと思われます。

第3回目の検討会が今年3月31日に行われる予定です。そして今後のスケジュールとしては、今年の秋を目途に中間的な取りまとめが行われる見込みです。これらの検討会議事録は、下記サイトにて公開されていますので、関心のある方は定期的に確認されておくとよいでしょう。

参照:加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/other/kakousyokuhin_kentoukai.html
食品表示基準 別表第十五(P527)
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/150320_kijyun.pdf

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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
 株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
 公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
・2023年6月15日 添加物の不使用表示について
 株式会社インフォマート様主催。

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