食品のインターネット販売における情報提供について

By | 2017年2月3日

 2016年末に、消費者庁より「食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会報告書」が公表されました。報告書内では提言もなされていますが、消費者や事業者に対する調査の結果などが掲載されており、今後の食品製造販売の参考にできると思います。原産地表示のような義務化の話題とは異なり、こうした「任意」の表示については忙しいと検討する時間を確保しにくいものですが、その分、差別化を考えるうえでのヒントになる可能性もありますので、こちらで取り上げたいと思います。

懇談会の背景と提言の概要


 まず懇談会の背景は、主には「インターネット等を利用して食品を購入する場合、食品自体は遠隔地にあるため、消費者は購入時にラベル表示を確認できない」ことによります。

 そして全10回の開催を経て「事業者は、消費者が購入時に食品の義務表示事項と同等の情報の内容を確認できるような環境を整備することを目標としつつ、『情報提供の促進のための取組』を参考に、段階的に情報提供の取組を推進し、義務表示事項に係る情報提供を拡大していくことが望ましい」等の提言がなされました。

統計情報と主な調査結果


 参考にするべき「情報提供の促進のための取組」は結論にとっておくとして、その前に国内の統計情報と、主な調査結果を抜粋したいと思います。

【総務省の統計情報】

  • 「ネットショッピングを利用した世帯(二人以上)の世帯全体に占める割合」は24.8%(平成26年)
  • 「一世帯当たり1か月間のネットショッピングの消費額(二人以上の世帯)」は9,138円(平成27年)
  • 「ネットショッピングの支出額に占める主な項目の支出額の割合(二人以上の世帯)」の内、「食料」は11.8%(平成27年)

【主な調査結果】

  • 義務表示事項に係る情報を重視する消費者は1割程度であるが、インターネット販売で食品を購入したことがある消費者の9割程度は、購入時に何かしらの義務表示事項に係る情報を確認している。

    • 食物アレルギーで食事に留意が必要な場合は、「アレルゲン」を特に確認。
    • 初めて購入する場合は、「原産地」や「製造者」、「消費期限・賞味期限」を特に確認。
    • 毎回購入する食品をすぐに欲しい場合はあまり確認しない。
    • 缶詰などの生鮮に近い加工食品は「原材料」を特に確認。
    • 冷凍食品、レトルト食品、スナック菓子では「栄養成分表示」を特に確認。
  • 「利用しているサイトを選んだ理由」に対し、「提供されている義務表示事項に係る情報が多いから」を選択した者は、週1回以上の利用者では37.4%、月1~3回では21.2%、月1回未満では15.9%。
  • インターネットでの食品の購入経験がない消費者に対し、購入のためにインターネット販売のウェブページ上で提供してほしい義務表示事項に係る情報を問う設問には、「消費期限・賞味期限(同等のものを含む)」(74.4%)、「原材料」(73.4%)、「原産地・原料原産地」(70.7%)の順で多く回答。

情報の更新に係る課題


 以上のように、一言で言えば「実際の食品ラベルと同じ内容を、同じ記載方法で掲載する」ことが最善と言えるのですが、「情報の更新」という大きな課題があります。サイトに掲載されている情報と、実際に発送される商品の情報とが一致しているかどうかを管理することです。実際にインターネットで食品を販売されている方は実感があることと思いますが、報告書にも整理されていますので抜粋してみました。

  • 製造者から伝達された義務表示事項に係る情報を全てウェブページで提供しているかについては、提供「していない」が4割程度存在しており、その中には、ウェブページの情報を最新に保つことが困難であるとの理由から、製造者から伝達された情報を提供していない事業者が存在する。
  • 取引開始時に伝達された情報に、その後、変更があるかどうかや、変更の可能性がどの程度あるか等は把握できていないので、直ちに対応できないこともある。また、食品の情報が変更された場合、製造者から流通業者まで情報が伝達される仕組みがそもそも不十分である等の事情がある。
  • 生鮮食品については、天候不順等によって、あらかじめ計画していた産地の商品が調達できない場合も少なくないということがあり、直前での情報の変更が生じることもある。

情報提供の促進のための取組


 以上の課題も踏まえ、「『情報提供の促進のための取組』を参考に、段階的に情報提供の取組を推進し、義務表示事項に係る情報提供を拡大していくことが望ましい」と報告されています。以下に、ポイントをお伝えしたいと思います。

取組のポイント

  • 対応できる義務表示事項に係る情報から順に取り組む。
  • 対応できる食品から順に取り組む。
  • 問合せ先をウェブページ上に記載する。
義務表示事項に係る情報ごとの提供方法例

  • 【保存方法】
      一目でわかるように、「冷凍」、「冷蔵」、「常温」の別についても情報を提供する。
  • 【消費期限/賞味期限】
      「必ず賞味期限が30日以上あるものを配送する」など、期限の情報を提供する。
  • 【内容量】
      重量に加えて1個当たりの目安となる重量を記載することや個数を併記する。
  • 【アレルゲン】
      義務7品目だけか、又は推奨まで含めた27品目かを明示して情報を提供する。

 アレルゲンなど安全性に関する情報については、「目立つように記載する」「必要十分な情報をコンパクトに分かりやすく掲載する」「別ページで一覧表を示している」などの工夫も報告されています。

 情報更新の課題に対する事業者の取組などもまとめてありますので、インターネットで食品を販売される方は、一度読んでおかれるとよいと思います。

出典:食品のインターネット販売における情報提供の在り方懇談会報告書(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/foods_index_26_161213_0002.pdf
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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

>> 寄稿の詳細はこちら

【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

■最近の講演・セミナー実績
・2023年12月21日 輸出食品における各国基準(添加物および食品表示等)調査と実務上のポイント
 一般財団法人食品産業センター様主催。
・2023年11月9日 食品表示基準と実務上の大切なポイント~保健事項、衛生事項を中心に~
 千代田保健所様主催。
・2023年11月8日 添加物の不使用表示について
 株式会社インフォマート様主催。
・2023年10月12日~13日 海外輸出向け食品の表示(添加物、栄養成分等)について
 公益社団法人日本食品衛生学会様主催。
・2023年6月15日 添加物の不使用表示について
 株式会社インフォマート様主催。

>> 講演・セミナーの詳細はこちら

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