アレルギー表示推奨品目にカシューナッツとゴマ追加へ

By | 2013年7月8日

2013Cashew

3年ごとの見直しの一環として


5月30日、消費者庁がアレルギー表示の推奨品目に、カシューナッツとゴマを追加する方針を固めたと報道がありました。もともとアレルギー物質を含む食品表示については、概ね3年に1度、食物アレルギーによる健康被害の実態調査を行い、その結果のうえで表示制度を見直していることが背景にあります。前回は平成20年度に、「えび」「かに」の表示義務品目への追加(推奨からの格上げ)がありました。これで義務7品目、推奨20品目の計27品目の表示対象となる見込みです。

義務表示(7品目) 卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに
推奨表示(18品目)
(通知により表示を推奨)
あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

即時型食物アレルギーに関する試験検査


今回の委員会では、『平成24年度食品表示に関する試験検査「即時型食物アレルギーによる健康被害、及びアレルギー物質を含む食品に関する試験検査」』をもとに議論がされました。

この調査報告書は、アレルギーを専門とする医師(日本アレルギー学会指導医および専門医、日本小児アレルギー学会会員の中で調査の主旨に賛同をえられたもの(平成22年度1079名))が、調査対象として「何らかの食物を摂取後60分以内に症状が出現し、かつ医療機関を受診したもの」2954例(平成23年)を研究したものです。

調査結果から原因食物とショック誘発頻度を上位から並べたところ、現在の義務表示7品目と推奨表示18品目合計で82?93%を占めているとされています。
ここで「原因食物上位でカバーされていない食品は、カシューナッツ(全体に占める割合0.6%)、ゴマ(0.4%)、またショック症例においては、カシューナッツ(ショック症例に占める割合1.6%)」として、カシューナッツとゴマについては表示の検討をすべきという報告となり、今回の委員会で表示対象追加の運びとなったようです。

原因食物およびショック誘発食物の頻度
原因食物およびショック誘発食物の頻度

(また同時に甘味料の摂取によるアレルギー調査の結果も報告されていました。結果ではエリスリトール15例、キシリトール10例、ステビア2例などが即時型アレルギーの健康被害の疑いがあるとされています。キシリトールとステビアは添加物なので物質名の表示が必要であることから、食品表示に対する影響は今後も少ないとみられます。エリスリトールは食品ですので、ごく微量の使用で表示を省略している場合は、今後の発表を見守る必要があるかと思います。)

時期、経過措置等は今後検討


こうした経緯で「カシューナッツとゴマ」推奨表示対象化の方向性が決まったとされています。気になる時期についてですが、公開された議事録では通知時期に関しては明記されていません。施行から1年もしくは2年の経過措置を経て、正式に運用となるのが通例ですが、通知以前に事業者側に必要な準備を検討すると思われます。今回はえび・かに(元々推奨だったものを義務に格上げ)とは異なり、元々資料に含まれていない物質の追加ですので、通知までにある程度時間がかかる可能性もあるかと思います。

例えば代替表記と認められる複合原材料などの範囲の検討です。代替表記とは、例えば「醤油」のみの表記で大豆表記の代わりになる、「マヨネーズ」のみの表記で卵表記の代わりになる、といったものをまとめたルールです。

また添加物中に含まれるアレルギー物質の一覧表(「特定原材料等由来の食品添加物についての表示例」)もそうです。例えば「レシチン」などは大豆由来であることも多いのですが、その文字外見だけからはアレルギー物質由来かどうかが判断しづらいものです。こうしたものをまとめた一覧表についても、カシューナッツやごまを反映されたものが発表されると思います。

実務上での大切なポイント


カシューナッツやゴマを含む複合原材料、またそれらを由来とする添加物が少ないようであれば、意外と早く通知自体があるかもしれません。そのため、起こりうる変化を早めに察知しておきたいものです。

まずは、現在の規格書中から情報を遡って、「カシューナッツ」「ゴマ」が使用されている原料や商品がどの程度あるかを、把握しておく必要があると思います。

また海外サプライヤーから原料を輸入している場合は、多くの場合「ナッツ類」と情報を受け取っていると思います。これまでは「ナッツ類に”くるみ”は含まれるか」の確認ですみましたが、ここに「カシューナッツ」を追加してヒアリングする必要があると思います。

もしも推奨品目含め特定原材料は使わない、という商品開発ポリシーであれば、原料変更など商品開発自体に関わる問題については、早めに対応しておく必要があります。

次にシステム面の見直しです。
情報を管理する規格書等に、アレルギー物質として最大25品目までの登録しかできないフォーマットであれば、これを変更することも検討が必要です。

デザイン上ですでにアレルゲンテーブルなどを使って25品目すべてを表記している場合は、こちらのスペース確保も検討が必要になると思います。またすでにホームページやカタログ等で消費者向けにアレルギー物質を含む商品一覧表などの情報を提供している会社は、これらの修正を検討する時間も確保が必要です。

そして正式な通知があれば、消費者庁等から先ほどの「代替表記」「特定原材料由来の添加物」などの周辺情報も発表されると思います。例えば「芝麻醤」はゴマとしての代替表記が可能なのか、などといった問題もここで確認できるようになると思います。


長くなりましたが、私は表示には賛成です。アレルギーというのは、当事者の立場で考えると大変な問題です。推奨とはいえ、今は多くの事業者が情報開示しているので、該当のアレルギーを持つ方にはよい知らせではないかと思います。ただ私も、商品開発側や品質保証側の苦労も同時に味わうことになりますので、また大変な作業が増えそうだな・・・という気持ちもあります。

いずれにしてもこうした制度見直し自体が、商品の見直しの契機にもなりますので、よりよい商品づくりに応用できるきっかけになれば、と思います。

追記

アレルギーのカシューナッツとゴマの追加については、
2013年9月20日消費者庁より正式発表され、猶予期間は2014年8月31日まででした。


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川合 裕之

川合 裕之

代表取締役社長株式会社ラベルバンク
食品表示検査業をしています。国内と海外向けに、食品表示検査と原材料調査サービスを提供している経験をもとに、食品表示実務に関する講演をしています。

■職歴・経歴
1974年 岡山県生まれ
食品メーカー勤務後、2003年に食品安全研究所(現株式会社ラベルバンク)を設立。
「分かりやすい食品表示」をテーマとし、「食品表示検査・原材料調査」などの品質情報管理サービスを国内から海外まで提供しています。また、定期的に講演活動も行っています。

■主な著作物・寄稿ほか
【共著】
『新訂2版 基礎からわかる食品表示の法律・実務ガイドブック』 (第一法規株式会社, 2023)

【寄稿】
・2023年12月『食品と開発』(健康メディア.com)「海外の栄養プロファイリングシステムと栄養表示制度」
・2021年10月『Wellness Monthly Report』(Wellness Daily News)40号
「食品表示関連規則の改正状況 今後の『食品表示』実務上のポイント」
・2020年2月『月刊 HACCP』(株式会社鶏卵肉情報センター)「アレルゲン表示の現状と留意点」
・2017年~2018年連載 『食品と開発』(UBMジャパン)「表示ミスを防ぐための食品表示実務の大切なポイント~」

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【講義】
・2009~2014年 東京農業大学生物産業学部 特別講師

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